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2025年10月22日

活用したい

【空き家バンクから生まれた古民家再生】「THE ARAMAKI 荒蒔邸」(常陸太田市里美地区)

 【空き家バンクから生まれた古民家再生】「THE ARAMAKI 荒蒔邸」(常陸太田市里美地区)

仕組みを動かすのは、いつも人のつながり

― 借り手の情熱と、現場で交わした確かな信頼 ―

「空き家」という言葉を耳にすると、どこか寂しさや、マイナスの印象を抱く方が多いかもしれません。
人が住まなくなった家、傷みが進んだ建物、管理の手間や費用の負担――。
確かに現実には課題も多く、所有者にとっては“悩みの種”になることもしばしばあります。

けれども、少し視点を変えてみると、それらの空き家は「まだ活かしきれていない地域の資源」でもあります。
建物そのものが持つ味わいや温もり、立地が育んできた自然との関わり、そして長い時間を経ても残る地域の記憶。
それらを丁寧に掘り起こしていくことで、空き家は“問題”から“可能性”へと変わっていくのです。

茨城県常陸太田市では、こうした空き家を「新しい暮らしや観光、地域交流の拠点」として再生する動きが進んでいます。
その中心的な仕組みが、市が運営する空き家・空き地バンク「じょうづるホーム」。
市内の空き家や空き地を所有する方と、移住・定住、または事業利用を希望する方をつなぐための制度です。

しかし、どれほど制度が整っていても、建物を動かすのは最終的には「人」。
行政の仕組みや手続きだけではなく、現場で関わる人の思い、決断、行動力がなければ、空き家は再び光を放つことはありません。

その象徴的な事例が、今回ご紹介する「THE ARAMAKI 荒蒔邸(あらまきてい)」です。
この建物は、弊社が仲介を担当させていただいた案件であり、
当初は所有者がご自身で管理されていたものの、なかなか活用が進まない状況が続いていました。
そこに現れたのが、現地に足を運び、古民家の可能性を直感で掴んだ借り手の方。
彼のバイタリティーと行動力、そして私たち仲介側のサポートが重なり、
眠っていた築200年の家は「THE ARAMAKI 荒蒔邸」として新たな命を吹き込まれることになったのです。

私自身も、契約をまとめた一人として、そして一度宿泊した体験者として、
この家が持つ魅力を肌で感じています。
梁の木の香り、囲炉裏のぬくもり、夜に響く虫の声。
どれもが心に残り、「空き家をどう活かすか」という問いに、明確な答えを与えてくれた場所でした。

1. 里美の山あいに眠っていた築200年の家

常陸太田市の北部、旧里美村の中心地・大中町(おおなかちょう)
かつての村役場や神社が近くにあり、古い住宅が静かに並ぶこの一帯は、今もなお“里山の暮らし”が息づく地域です。
四季の移ろいがはっきりと感じられ、
春は山桜が咲き、夏は沢の水音とともに蛍が舞い、
秋には稲穂が風に揺れ、冬は澄んだ空気の中に朝霧が漂います。
派手さはなくとも、自然と人の営みが寄り添う“穏やかな原風景”がここにはあります。

その静かな集落の中に、ひっそりと佇むのが「荒蒔邸」。
推定築200年以上の古民家で、柱や梁の一本一本に長い年月の重みが刻まれています。
天井を支える太い梁には、手斧(ちょうな)で削った跡がそのまま残り、長年の煤で黒光りしています。
土間には大きな竈(かまど)が据えられ、囲炉裏の炭の香りが今もかすかに漂う。
障子越しに通る風が柔らかく、外の竹林を揺らす音が家の中に響くたび、この家が見てきた時間の長さを感じずにはいられません。

所有者の方は、この家で幼少期を過ごしたご家族です。
代々受け継がれてきた生家を解体する決断は簡単ではありません。
「自分の代で終わらせたくない」「誰かに引き継いでほしい」
その思いはずっと胸の奥にありました。
けれども、現在は市街地から車でおよそ1時間ほど離れた場所に居住しており、日常的にこの家を訪れることが難しくなっていました。
草木の手入れや建物の通風、屋根や雨樋の点検など、
少しの油断で家の状態が変わってしまう古民家の維持には、
時間と体力、そして気力が求められます。

幼い頃の思い出が残る家を見つめながら、
「もう少し近ければ」「誰かに使ってもらえたら」
そんな気持ちが少しずつ募っていきました。
そして、家を大切に使ってくれる人が現れることを願い、
思い切って常陸太田市の空き家・空き地バンク『じょうづるホーム』へ登録することを決意されたのです。

市の職員が現地を確認し、写真を撮り、物件情報を整備。
登録後は、市と協定を結ぶ地元の宅建業者が媒介を担当します。
「空き家をどう処分するか」ではなく、
「どう活かすか」へと考え方を切り替えるための第一歩。
それが、この登録の本当の意味でした。

そしてその登録をきっかけに、家の運命は静かに動き始めます。
遠方から見学に訪れた一人の利用希望者が、この古民家に強い関心を示したのです。
この出会いが、「THE ARAMAKI 荒蒔邸」誕生の第一章となりました。


2. 「じょうづるホーム」という橋渡しの仕組み

常陸太田市が運営する空き家・空き地バンク『じょうづるホーム』は、
「空き家を売りたい・貸したい人」と、「利用したい・移住したい人」をつなぐ仕組みです。

市内に点在する空き家の情報を集約し、ホームページ上で公開。
興味を持った方が登録・申請を行うと、市が現地確認を行い、条件に合った物件を紹介します。
ここまでは行政の仕組みとして整えられた部分ですが、実際の交渉や契約を担うのは地元の宅地建物取引業者です。
市と協定を結んだ業者が、所有者と利用希望者の間に立ち、
現場の実情を踏まえながら、価格・条件・修繕などをすり合わせていきます。

つまり、市が直接取引を進めるのではなく、
「地域をよく知る業者」が、双方の思いを受け止め、安心と納得を伴う契約へ導く。
これが『じょうづるホーム』の最も重要な仕組みであり、信頼性を支える根幹です。

空き家は、単なる建物の売買では終わりません。
そこには所有者の暮らしの記憶や、地域への思いが詰まっています。
一方で、利用希望者には「こんな暮らしをしたい」「この地域で挑戦してみたい」という夢や目的があります。
この両者をつなぐためには、数字や契約条件だけではない、人の言葉と温度感が欠かせません。

私たちも協定業者の一つとして、これまで常陸太田市内外の多くの案件に携わってきました。
時には、所有者の方が「本当に手放していいのか」と迷う場面もあり、
時には、利用希望者が資金計画に悩み、再考されることもあります。
そのたびに私たちは、法令や契約の枠にとどまらず、
「どうすれば双方にとって最善の形になるか」を一緒に考えてきました。

不動産の取引というと、どうしても「金額」「条件」といった部分に焦点が当たりがちですが、
実際の現場では、人と人の信頼関係を築くことが最も大切です。
所有者が大切に守ってきた家を、次に使う人がどんな思いで引き継ぐのか。
その橋渡し役を務めることが、地域の業者に課せられた使命だと感じています。

『じょうづるホーム』という制度は、
その信頼関係を築くためのきっかけを与える仕組みでもあります。
行政・地域・民間がそれぞれの立場で支え合うことで、空き家が「再び使われる場所」に変わる。
制度が整い、現場の人が動き、そして想いが交わる――
その積み重ねが、里美地区の「荒蒔邸」のような成功事例を生み出しているのです。

荒蒔邸の案件も、まさにその流れの中から生まれました。
制度がきっかけでありながら、最後に建物を動かしたのは人の行動とつながり。
ここから、古民家が再び息を吹き返すまでの歩みが始まります。

3. 新たな出会い、そして再生へ

じょうづるホームに登録されてから間もなく、
「この家を宿泊施設として再生したい」という相談が寄せられました。
現地を訪れたその方は、玄関をくぐるなり梁を見上げ、
「この家は本物ですね」と一言。
建物の持つ力を直感的に感じ取っておられたのが印象的でした。
囲炉裏や竈(かまど)、土壁や障子など、どれも現代では再現が難しい要素です。
それだけに、この家に惹かれた気持ちは強く、宿泊施設として活かす具体的な構想をすでにお持ちでした。

ただし、ここからが本当の始まりです。
古民家を賃貸として活用する場合、単なる“貸す・借りる”では済みません。
家屋の老朽化、修繕の範囲、原状回復の扱い、使用目的、設備投資の分担など、
事前に取り決めておくべき項目は非常に多岐にわたります。
特に宿泊施設として利用する場合は、
防火・安全面の基準や近隣への配慮も含め、細かな確認と合意が必要です。

この調整を的確に進められるかどうかで、
「再生が軌道に乗るか」「途中で頓挫するか」が分かれます。
私たちはその間に立ち、貸主・借主それぞれの立場を整理しながら、
双方が安心して契約できる形を一つひとつ形にしていきました。

貸主は「長く住んだ家を任せる責任」を感じ、
借主は「自分の手で新しい命を吹き込みたい」と語る。
その想いの温度は違っていても、
どちらも「この家を残したい」という一点でつながっていました。

不動産の現場では、制度や書面だけでは埋められない“間”があります。
条件を並べるだけではなく、言葉の裏にある本音や不安を受け止め、
双方の意思がきちんと交差する場所を見つけること。
そこにこそ、私たち地元業者の役割があります。

最終的に契約がまとまったとき、
貸主は「これでようやく安心できました」と話され、
借主は「この場所を次の世代に残したい」と答えました。
その瞬間、この家は“所有”から“継承”へと意味を変えたのだと思います。

そして築200年の古民家は、
「THE ARAMAKI 荒蒔邸」という新しい名を得て、
宿泊施設として再び人を迎える準備を始めました。
制度がきっかけとなり、行動した人が道をつくり、
そして私たちが間を取り持ったことで、
古民家の再生が現実の形になったのです。

 

4. 「THE ARAMAKI 荒蒔邸」が教えてくれること

THE ARAMAKI 荒蒔邸の再生を通じて感じたのは、
空き家を動かすのは建物そのものではなく、人の意思と関係性だということです。
制度があっても、補助金があっても、それだけでは家は動きません。
実際に動かすのは、「どうにかしたい」「何かに活かしたい」と思う人の存在です。

今回の荒蒔邸では、貸主・借主・行政・地域、そして私たち仲介業者が、
それぞれの立場で役割を果たしながら一つの方向を見て進めたことで、
古民家が新しい形で息を吹き返しました。
特に印象的だったのは、借主の行動力と、
それを受け止めて応援した貸主の柔軟な判断です。
どちらか一方では成立せず、そこに“信頼”という橋をかけるのが私たちの役割でした。

古民家の再生は、見た目以上に地道な作業の連続です。
修繕や申請などの手続きも多く、費用の見通しを立てるのも容易ではありません。
しかし、関わる人たちの思いが一つの方向に向くと、
そこに確かな力が生まれるのを感じます。
荒蒔邸の再生は、まさにその積み重ねの結果でした。

そして今、この場所にはもう一つの魅力が加わっています。
それが、敷地内の別棟を活用した「SATOMIカフェ」です。
週末限定でオープンするこのカフェでは、
里美地区の農家が育てた野菜や果物を使った軽食やスイーツが提供され、
宿泊客だけでなく、地元の方も気軽に立ち寄れる場所になっています。
地域の食材を生かしたメニューを通じて、
訪れた人と地域の人が自然に言葉を交わし、
“里美らしい時間の流れ”を共有する場が生まれています。

こうした日常的な交流が、古民家の再生を“地域の文化活動”へと押し広げています。
単に建物を貸す・借りるという関係ではなく、
再生した空間が地域の人々の誇りや楽しみになる――。
その循環こそが、空き家活用の最も理想的な形です。

荒蒔邸の取り組みは、数字では測れない価値を地域にもたらしました。
近隣の方々が庭先で談笑する声が増え、
地元の若者がイベント企画を持ちかけるなど、
「空き家が動けば地域が動く」ことを実感させてくれます。

不動産の仕事は、売買や賃貸の成立で終わりではありません。
その先にどんな関係性が生まれるか、
どんな使われ方をするかを見届けることも大切です。
THE ARAMAKI 荒蒔邸は、まさにその“その先”を見せてくれた場所。
手続きを超えたところに、人の思いと地域の未来が確かに存在しています。

空き家は、放置されれば負担になります。
けれど、関わる人が増えれば増えるほど、
それは地域の資源へと姿を変えていく。
その変化をこれからも現場から伝え続けたいと思います。

 

5. 市の支援制度が背中を押す

THE ARAMAKI 荒蒔邸の再生が形になった背景には、
常陸太田市が整えてきた空き家活用の支援制度の存在があります。
行政が直接契約に関わるわけではありませんが、
制度としての後押しがあることで、
「やってみよう」と思える人が確実に増えているのを実感します。

常陸太田市は、空き家・空き地バンク「じょうづるホーム」を中心に、
利用希望者や所有者が安心して次の一歩を踏み出せるよう、
複数の助成制度を用意しています。
それらは書面上の制度にとどまらず、
実際の現場で“動く力”として機能しているのが特徴です。

たとえば、空き家リフォーム工事助成金
これは、空き家バンクに登録された物件を居住や活用目的でリフォームする際、
費用の半額(上限100万円)が補助される制度です。
さらに、地元産の木材を使う場合には、
木材費の一部(上限10万円)が上乗せされます。
地域の建築業者と林業を同時に支援する仕組みで、
「地域で稼ぎ、地域で循環させる」流れをつくっています。

また、家財道具等処分費用助成金も地味ながら効果的です。
古民家には長年の暮らしの名残として多くの家具や家電が残されており、
新たに活用する際にはこれらの処分費が大きな負担になります。
この制度では、処分費用の半額(上限10万円)を助成。
「残置物が多いから貸せない」と諦めていた所有者にとって、
再生へ踏み出す後押しとなっています。

さらに、空き家・空き地見守り等助成金
これは遠方に住む所有者を対象に、
地元業者が定期的に点検や除草を行う際、
費用の一部を助成する仕組みです。
所有者が高齢だったり、市外に住んでいたりしても、
「市が見守ってくれる」という安心感があるだけで気持ちが前に向く。
結果として、空き家の維持状態が良く保たれ、
次の活用につながりやすくなります。

これらの制度は、単なる金銭的支援にとどまりません。
大切なのは「安心して動ける環境」を整えていること。
不動産の現場では、所有者が“最初の一歩”を踏み出すまでに時間がかかります。
制度が明確に示されていることで、
「何から始めればいいのか」が具体的に見えるようになる。
その安心感が、行動を生みます。

実際、荒蒔邸の再生でも、
市の制度を理解したうえで前向きに動けたことが、
貸主・借主双方にとって大きな支えになりました。
「補助金を受けられるかどうか」だけでなく、
「市が見てくれている」という信頼感が、
地域の事業を動かすエネルギーになっていると感じます。

空き家対策というと、
多くの自治体が“登録件数”や“成約件数”を成果として掲げます。
しかし、常陸太田市の取り組みはもう一歩踏み込んでいて、
「再生後の暮らしや交流までを見据えている」点に特徴があります。
制度があるから動ける人が増え、
動いた人が新しい関係を生み、
それがまた地域の力になる。
THE ARAMAKI 荒蒔邸の成功は、
まさにその循環が実際に機能している証拠です。

 

6. 「空き家」は地域の未来を描くキャンバス

荒蒔邸の再生を通じて、改めて感じたのは、
空き家は決して「放置された建物」ではなく、
地域の未来を描くためのキャンバスだということです。

誰かが関心を持ち、想いを込めて手を加えれば、
人が集まり、笑顔が生まれ、地域に温かい灯がともる。
宿泊施設やカフェ、アトリエ、サテライトオフィスなど、
古民家の可能性はまだ数えきれないほど広がっています。

私たち不動産業者の仕事は、その最初の“ご縁”をつなぐこと。
ただ契約をまとめるだけでなく、
「どう活かせばこの土地にとって最も良い形になるか」を一緒に考えることだと思っています。

荒蒔邸のオーナー様も、当初は「維持が大変で」と悩まれていましたが、
今では「この家が地域の役に立ててうれしい」と話されます。
その笑顔こそが、空き家再生の原動力であり、地域を動かす力です。

常陸太田市の「じょうづるホーム」制度、
それを支える市職員や地元業者、そして行動を起こした借主。
それぞれの立場が重なり合って、一つの古民家が再び動き出しました。
THE ARAMAKI 荒蒔邸は、制度と人の想いが出会うことで、
地域に新しい価値を生み出した事例だと思います。

私たち(有)ユーハイムは、
今後も空き家の利活用・再生を通じて、
地域の資産を次の世代へつなぐお手伝いを続けてまいります。
もし、使われていない建物や土地についてお悩みの方がいらっしゃいましたら、
どうぞお気軽にご相談ください。
一つの空き家からでも、地域の風景は確実に変わります。


📩 お問い合わせ:info@yu-haim.jp


湯 田 圭 一(ゆだ・けいいち)
(有)ユーハイム 代表取締役。1972年、東京都西東京市生まれ。
宅地建物取引士として約25年にわたり不動産業に従事。
茨城県宅地建物取引業協会 水戸支部 幹事として、地域不動産業界の発展にも注力。
空き家対策、相続不動産、事業用地のマッチングなど、実務に即した現場提案に定評がある。

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